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高松高等裁判所 昭和40年(う)335号 判決 1966年3月09日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

論旨は、要するに、原判決が、被告人の本件自動車運転を業務と認め、かつ、時速五〇キロメートルの高速のまま一時前方注意を怠つたと認めたのはいずれも誤認であるというのである。

しかし、記録によれば、被告人は、自動車運転免許を受け、昭和三五年頃から浜田ポンプ商会のセールスマンとして勤務するにつき常時自動車を運転していたところ、昭和三七年七月八日いわゆる轢き逃げ事故を起し、そのため同年九月一二日免許の取消処分を受け、以来自動車運転を止めていたが、勤務のためにも一日も速やかに再免許を受けたいと思い、試験に備えて教習所で運転練習を続けていたこと、そして同年一二月一日右事故の事件につき裁判所で審理を受けていたのに出張勤務の帰途運転者井上宏の頼みに応じ交替して本件自動車を運転していたことを認めることができ、右の事実から当時被告人は将来もばあいによつては随時自動車を運転する意思を有したことをも推認することができるから、被告人の本件自動車運転はその業務に属すると認めるのが相当である。

また、記録によれば、本件と同種の自動車が時速五〇キロメートルで進み急停車するばあい、本件のような舗装道路では約九、四メートルのスリツプ痕を生ずるものであるところ、本件事故当時被告人の運転車は停止するまで一四メートル以上のスリツプ痕を残していたこと、並びに、当時被告人運転車の約五〇メートル前方をタクシーが進行していたが他に通行車はなく、被告人運転車の前照灯は約一〇〇メートル前方を照明していたのに、被告人は歩車道の境界あたりにいる被害者を約二〇メートルの距離に近づいた時発見し、その後は被害者を認知せず、次いで車道を横断しようとしている被害者を約一二メートルの至近距離で認め、急停車の措置をとつたが自車を被害者に衝突させたこと、従つて、被告人は時速五〇キロメートル以上のまま前方注視を怠つて運転したため本件事故を起したことを容易に認めることができる。

原審記録並びに当審事実取調の結果を検討しても以上の認定を動かすに足る資料はなく、原判決に所論の各誤認はないから、論旨は採用できない。(横江文幹 東民夫 梨岡輝彦)

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